「社会人になって、お給料をもらえるようになった。それはうれしい。でも、銀行のお金、ちゃんと管理できるのかな?」
うちの息子には軽度知的障害があります。支援学校や支援級には在籍せず、なんとか普通級でやってきて、今は一般就職で働いています。
高校の頃よりずいぶんしっかりしてきたなと感じる一方で、ものの管理はやっぱり苦手。そんな中、先日「メルカリで欲しいものを買いたい」と言ってきました。
自分のお金で欲しいものを買いたい。それ自体は立派な成長です。でも親の頭に浮かぶのは「トラブルにならないかな」という心配ですよね。カードは?暗証番号は?と、考え始めると次々に不安が出てきます。
この記事では、同じように「社会人になった子のお金」に悩む親御さんに向けて、わが家で考えた仕組みと、親だけで抱えないための窓口をまとめました。
なぜ難しい?「見えないお金」と「増えすぎた選択肢」
今はスマホひとつで調べものも買いものもできる、便利な時代です。その一方で、使いこなさないといけない道具やツールはどんどん増えました。
現金、キャッシュカード、コード決済、クレジットカード、フリマアプリ。大人でも把握しきれないほど、選択肢が増えています。
発達がゆっくりな子にとって難しいのは、実は「計算」よりも、財布から減っていくのが見えない「見えないお金」をイメージすることと、たくさんの選択肢の中から自分で選ぶことです。
だから、本人の注意力や努力に頼るのではなく、先に「間違えにくい仕組み」を作ってしまうのが近道です。
銀行のお金は「仕組み」で守る
わが家がまず考えたのは、給料が入る銀行口座まわりの仕組みづくりです。
- ①口座を「使う用」と「貯める用」に分ける:給料が入る口座は使う用。貯める用の口座のカードは持ち歩かず、家に置いておきます。全財産が入った1枚のカードで買い物をするのが、いちばん危ない形です。
- ②貯金は自動つみたてにする:「残ったら貯金」は大人でも続きません。給料日に自動で貯める口座へ移る「自動つみたて」を銀行の窓口やアプリで設定すれば、本人ががんばらなくても貯まっていきます。
- ③通帳とカードの置き場所を1か所に決める:ものの管理が苦手な子には、「なくさないように気をつけて」ではなく置き場所の固定が効きます。家の鍵と同じで、「帰ったらこの箱に入れる」まで決めておきます。
- ④暗証番号のルールをシンプルに決める:誕生日にしない。そして「暗証番号を聞いてくる電話やメッセージは、全部あやしい」。例外のないシンプルなルールにしておくと、判断に迷いません。
カードは「原則、口座残高の範囲で使う」ものから
「いきなりクレジットカードは不安」。ここで止まってしまう親御さんは多いと思います。わが家もそうです。
そこで候補になるのがデビットカードです。利用代金が原則として銀行口座からすぐに引き落とされるため、後払いのクレジットカードより支出を把握しやすい方法です。ただし、海外利用や加盟店の処理方法などによって、後日請求や残高不足が生じる場合もあります。カードごとの注意事項を確認し、利用上限を低めに設定して始めると安心です。
利用通知を設定し、まずは本人が通知と残高を一緒に確認する習慣をつくります。家族も確認する場合は、成人した本人の意思とプライバシーを尊重し、どこまで共有するかを話し合っておきます。
クレジットカードを持つのは、その先で十分です。持つ場合も「後払いは借金と同じ」「『リボ払い』という言葉が出てきたら、その場で決めずに家族に相談」と先に決めておきます。
メルカリは「禁止」ではなく「一緒に、購入だけから」
「メルカリで買いたい」と言われたとき、いちばん避けたいのは頭ごなしの禁止です。禁止された子が親に隠れて始めると、困ったときに誰にも相談できなくなってしまいます。
わが家では、こう段階を分けることにしました。
- まずは「購入だけ」:出品は、発送や値下げ交渉などやりとりが一気に複雑になるので、当面やりません。
- 最初の数回は親と一緒に:横に並んで画面を見ながら、探す・比べる・買うの流れを一緒にやります。
- 約束を3つだけ決める:(1)商品説明と写真を最後まで見る(サイズ・傷・「ジャンク」の文字)。(2)届いたら中身を確認してから「受取評価」を押す。(3)相手からのメッセージで困ったら、返事をする前に家族に見せる。
支払い方法も、コンビニ払いやポイント払いなど「上限が見える方法」から始めると安心です。
親だけで抱えない〜お金の管理を手伝ってくれる窓口
ここまで家庭でできる仕組みを書いてきましたが、全部を親が背負う必要はありません。公的な相談先があります。
- 日常生活自立支援事業(社会福祉協議会):判断能力が十分でない方を対象に、本人との契約に基づいて、日常的な金銭管理や書類等の預かりなどを支援する制度です。利用には対象要件と契約内容を理解できる力の確認があり、利用料や支援内容は実施主体によって異なります。まずは市区町村の社会福祉協議会へ相談します(厚生労働省「日常生活自立支援事業」)。
- 消費者ホットライン「188(いやや)」:買い物やネット取引で困ったとき、身近な消費生活センターなどの相談窓口を案内してもらえます。一部のIP電話などからは利用できず、窓口につながった後は通話料がかかります。本人のスマホに登録しておくと安心です(消費者庁「消費者ホットライン」)。
- 障害者就業・生活支援センター:仕事のことだけでなく、給料の使い方などお金を含む生活面の相談にも乗ってくれる機関です。
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成人後に使える制度やサービスは種類が多く、名前も似ていて、どこから調べればいいのか迷います。制度の全体像を1冊で見渡せる本を手元に置いておくと、必要になったときの「調べる起点」になります。
気をつけたい関わり方
お金のことは心配が先に立つ分、関わり方が極端になりがちです。3つだけ気をつけたいことがあります。
- 全部禁止にする:目の届かないところで始めるほうが、ずっと危険です。「ダメ」ではなく「一緒にやろう」に置き換えます。
- 失敗を責める:数百円の買い物の失敗は、安い授業料です。責められた子は、次の失敗を隠すようになります。「教えてくれてありがとう」から始めると、相談ルートが生き続けます。
- 親が全部やってしまう:通帳もカードも親が握ったままでは、練習の機会がなくなります。失敗しても取り返せる金額の範囲で、本人に任せる部分を作っていきます。
子どもの頃からの「お金の練習」の積み重ねについては、こちらの記事もどうぞ。
- 発達がゆっくりな子の自立に向けて身につけたいこと|鍵・お金・予定管理の練習
- 子どものおこづかいの始め方|金額・ルール・金銭感覚を育てるポイント
- 発達障害の子どもが思春期を迎えたら〜中学・高校での変化とサポートのポイント〜
- 【療育・子育てまとめ】成長・自立サポートの記事一覧
今日からできる小さな一歩
- 通帳とキャッシュカードの「家の置き場所」を親子で1か所に決める
- 本人のスマホに「188(消費者ホットライン)」を登録する
- メルカリの話が出たら、禁止する前に「一緒に画面を見せて」と伝える
完璧な管理を目指さなくて大丈夫です。失敗しても取り返せる金額のうちに、少しずつ経験を積んでいけば大丈夫。
働いて、自分のお金で欲しいものを買おうとしている。それ自体が、もう大きな成長ですよね。心配しながら見守っているご自身のことも、どうか認めてあげてくださいね。


